Diary
大切に
~谷口吏さんのうるしの匙~
ずいぶん以前、東京のギャラリーで偶然谷口吏さんの作られた匙を拝見しました。
滑らかな曲線の美しい形、深く奥行きのある漆の色、とても素敵な匙だなぁ…と印象深かったのを覚えています。
その頃は漆のスプーンはとても贅沢なような気がして、自分の手元に置こうとはしなかったのですが、「こういうちゃんとしたものを日常に使うのはとても豊かなことなのだ」と思ったものでした。
谷口吏さんのお名前はその時にしっかり記憶したのですが、それ以来拝見することはなくいました。
昨年の暮れ、京都の御所近くに日日さんが再び開業されたと知ってHPを拝見すると、年明けすぐに谷口さんの匙の展示会があるとの告知がありました。
そして、同時に谷口さんが2015年の5月に亡くなられたことも知りました。
作品を持っている訳でもなく、もちろんお会いしたこともその人となりを存じ上げていた訳でもないのに、とてもショックでした。
「そのしごとをもう一度ふりかえりたくて、今回谷口さんが遺した匙を全て展示販売します」
と書かれていた文言を見て、必ず拝見しに行こうと思いました。
3日から展示会が始まって、京都の知り合いの方たちが作品展にいらっしゃったことや谷口さんとのやりとりなどをFBなどで書かれているのを読んだり、ネットでの情報でしたが、そこからも谷口さんのことをいろいろ知ることが出来ました。
夏になると山で漆を掻き、冬には匙を作られていたこと。
その暮らしぶりやお人柄、漆の仕事に携わるたくさんの方たちが悼み悲しみその存在の大きさを述べていらっしゃること。
とても美しいいろいろな匙の写真も…。
展示の最終日、やっと伺うことが出来ました。
御所東、大通りから奥まった静かな場所にある日々さん。
以前は料理屋さんだったという趣のある家は、とても落ち着いた風情です。
建物の中もお庭も、手入れが行き届いていてすっきりと居心地のよい空間です。
二間続きの部屋に谷口さんの匙が展示してありました。
今回300点以上の展示と伺っていましたが、最終日はさすがに数が減っていました。
でもそれぐらいで、作品展として谷口さんの匙を拝見するのが初めての私にはちょうどよかったのかも…と思いました。
それでも形で言うと20種類近くの匙を拝見できました。
棚に並んだ匙に吸い寄せられるように見入ってしまい、静かに感動でした。
漆かき、木地作り、塗り、一人三役ですべてご自分の手での仕事、その丁寧さと妥協を許さない凛とした谷口さんの気持ちが伝わってくるようでした。
もうこれが最後…という想いもあって、初めて見た時のちょっと尻込みするような気持はなく「この匙を大切に使わせていただこう」と、すとんと思えました。
年の初め、切ないけれどもとても豊かな気持ちになりました。
谷口さんを悼んで書かれた佐藤阡朗さんの文章です。
谷口さんを紹介されている日日 エルマー ヴァインマイヤーさんの記事です。
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芦屋の陶芸ギャラリースペース Abundante(アバンダンテ)
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